(レビュー)(創作・マンガ)(創作・小説)世界樹だ迷宮。

 一人でプレイ日記/レビュー/創作マンガ/創作小説/その他/を全部やってみよう企画第二弾にして最終回! ごめんなさい計画性のない人間が突発的な企画なんか試みちゃダメだね!


 と云うことで締め切り日当日に残りのレビュー・マンガ・小説を一挙更新ー。
 とか云いつつ小説がまだ未完成で(追記:書き上がりました)、取り敢えずトラックバックだけでも送っておこうと慌てて準備したらまあ素敵! 締め切りは18日の朝9時頃ですってよ! いっそのこと一回の更新で日記レビューマンガ小説その他を制覇してやろうかしら!


 とか発憤しましたが明日は朝早くからバイトー。
 それさえなければまじでやるところだったんですが。いやほんと。いっつとぅるー。


 与太話はともかく。以下に「小学6年生に世界樹をやらせてみた企画」・「素人4コマ(一本)」・「リプレイ小説」を並べます。順に、レビュー、マンガ、小説ね。もちろん、ゲーム内容に多く触れておりますのでネタバレ注意で御賞味下さい。「その他」は先々日の更新を、リプレイ日記は常日頃のそれで代用だー。

世界樹と迷宮。


 そんな訳で。
世界樹の迷宮』が、一部オールドファンのみならず最近ゲームを始めた初心者にも十分受け入れられる広い間口を持った作品だってェのはもはや周知の事実のようにも感じられます。もちろん私もそれに疑問を呈す者ではございません。ゲームを遊びながらも、方々にちりばめられたプレイヤーを飽きさせない工夫に感嘆しつつ迷宮を探索しております。
 けども。
 マニア、およびオタクを自称する人間の多くは自らの価値観と、世間一般との相違に疑問と不安を持っているものです。私もその一人。即ち、「(オタクである)儂の目からすれば十分初心者でも楽しめるよう配慮と工夫が為されているよーに思えるけども。果たして本当にそうなのかいねー」


 浮かんだ疑問は、術がツテがあるならとっとと解消しておくのがよろしい。
 そんな訳でお送りする、小学6年生であるところの末弟を呼びつけて世界樹を触らせてみた企画です。


 まあ卯月鮎さんの「はじめめてのファミコン」て企画のリスペクトと云うかまるぱくりと云うかな感じ。
(良い本なので読むと良い!)




 サンプルの紹介をしておくのが公平でしょう。
 呼びつけた小学6年生は、名前を便宜上「もと」と呼びます。
 二人の兄が毎月のようにゲームを購入しているので遊ぶゲームを常に持て余していると云う「お前。儂がお前んくらいの年の頃にゃあ遊ぶゲームなぞ滅多に増えずになあ……ロマサガ3を何周したことか……」等と愚痴の一つや二つを塗り付けたくなるような果報者。
 ただ、それが災いしてか一つのゲームを遊び終える前に他のゲームに目移りすることも多く、未だ「心の一本」に出会えてない様子。
 取り合えず、番好きなゲームって何? と本人に尋ねたところ。
ドラクエ……かなあ」
 と云う適当至極な返答。
 ドラクエの、どれよ。
「たぶん4。5も好きだけど」
 多分て。


 ともあれ。ゲーム開始。私には見慣れたタイトルの後に、ゲーム開始時にのみ表示される簡素な導入部分。
 漢字は難しくない?
「んー。たぶん大丈夫。最初はどこ行くの? ギルド? ギルドって何か格好良いね」
 解るようなわかんないような感覚やね。最初にギルド名を決める必要があるけど、何か考えてる?
「えー? いきなり難しいじゃん」
 いきなりて。まあ私も悩んだけどさ。
「ヒロくん(筆者のことだ)は何にしたの」
 儂? 私は『ラウタゲニ』にした。
「何それ」
 平安時代の猫が『らうたげ』だったらしいよ。と云うか、その頃の言葉で可愛らしいて意味みたい。『いと、らうたげに』と云う記述があってな? 
「それはやめとこう。なんかイヤ」
 うわ失礼な。
「適当でいいやもう」
 一度付けるともう直せないよ。
「ええー」
 まあ、(トラックバック企画の)締め切りも押してるしね。確かにここで蹴躓いて貰ってちゃ困るには困る。
 んーじゃあ、『ラタトスク』にでもなさい。世界樹ってーのは一般に北欧神話の、世界を支えているでっかい樹の事でな。その幹を上へ下へ走り回るリスの名前だ。
「おお、ピッタリじゃん。それで良いよそれで」
 ――と、入力し終えるのを待って。
 でさ。世界樹にはね? 他にも色々動物が棲んでるんだけど、それの代表的なのが天辺にいるフレーズベルグっつー大鷲と、根っこにいるニーズヘッグっつー蛇でね。この二匹は凄く仲が悪いんだけど、ラタトスクはその二匹の間を往復して「アイツがこんなこと云ってたぜー?」つって喧嘩を煽って喜んでるの。
「うわー!? なにそれ嫌な奴じゃんー!」
 はっは。もう直せないぞー。


 等と小ネタを挟みつつ。
 結局、パーティ編成に随分時間がとられることになるのでやや省略。
 名前のストックが全然ないらしい彼から如何にこういう「自分でキャラクターを作るゲーム」が珍しかったかを推し量ることも出来るけど、ま、そういうゲームはいつの時代も少数派だろう。
 使う職業は概ね決まったらしいけど、名前で随分難渋する。
 好きな漫画からは? だの、見た目で適当に決めれば? だの、友人の名前とか? だのと助け船を出すが、その中の。
 今までのゲームではどうしてたの? 例えば、ポケモンとか。
 が、決め手になった。
 職業からその役割に近いポケモンを選び出して、更にそのポケモンにニックネームを付けるつもりで名前を考えるという妙にアクロバティックな名付けになった。
 で。結果。


ソードマン / もと
パラディン / ブラキ
ダークハンター / ムル
アルケミスト / キア
メディック / フィー


 だそうな。助言は殆どしなかったけど、パーティバランスはオーソドックスに近く、十分整っている。
 もとは自分の名前。ムルは別のゲームで使ってた名前。他の三人はそれぞれポケモンの擬人化。誰がどれかは何となく伏せておきましょう。
 で。編成を終えて。


「やっぱ最初は武器を買いに行かないとねー」
 ふむ。最初に装備を揃えに行く辺り、小6とは云えある程度のゲーム常識は弁えているようだ。
 ところで。何かこー。シリカさんに対する感想とかは無いの?
「黒いね!」
 黒いかよ。まあ黒いけどさ。セクシーだなあとかさあ。
「えー? だってこの格好が普段着なんでしょ?」
 そう……なのかな。そうなんだろうけど。いや、普段着だと別にセクシーじゃないのか? 言葉の意味をはき違えてないか? むしろセクシーな普段着はそれはそれでだな。
「それで? 装備ってどうやるの」
 うわスルーしやがるし。Yボタンでキャンプ画面に出来るよ。
「……どれが装備?」
 あー。横文字は小学生にゃきついか。イクイップて奴がそれ。
 さて。次に向かったのは執政院。
「おー。なんかかっこいいね」
 漢字多いけど、大丈夫?
「まあ大体」
 音読してみ?
「ミッションのじゅりょーがはっせいしました。しっせーいんの……」
 あら小生意気。ゆとり教育とか云われてるけどそれなりの知的水準はあるのかね近頃のガキでも。
 とかで。早速迷宮へとなぐり込む。酒場へは寄ってみたものの、施薬院へは足さえ向けず。回復アイテムくらいは購入しといた方が良いよーとでもアドバイスしとこうかと思ったけど、助言をしては企画趣旨に反するし。まあメディックもいるだろうから平気だろうと引き続き眺める。
 ゲームオーバーくらいぶちかましてくれた方が企画的にもおいしいし。
 と。スキルを割り振るよう忠告されるメッセージ。
「これさあ、誰がいってるの?」
 さて。黒子みたいな人でもいるんとちゃいますか。
 等と云いつつ、キャンプ画面を適当にちゃかちゃか選んで行くウチにカスタムを見つける。こちらも特に助言はしなかったけど、概ねバランス良く割り振り完了。まあ、最初の三ポイントは選択肢もそんなに無いしな。
「ソードマンって、剣と斧どっちがいいの?」
 どっちとも云い兼ねるかな。剣は複数攻撃が出来る、斧は単体攻撃だけ。
「ふーん」
 と。そこでちょっと面白かったのは、ソードマンのスキルを剣ではなくて斧にした所くらいか。
「うわーもう、攻撃が普通に痛いねえ」
 と云いつつもガンガン先に進む。メディックの TP がかなりきわどい数値なのだけど……この辺はアレかなー。3D ダンジョン RPG に特有な『帰還の恐怖』を知らんからかな。
 と。トイレに席を外して帰ってくると、なんとあのモグラ三匹との戦闘イベントに突入していた。失敗だわーかなり重要なところじゃん。
「うわあ痛い! すげー痛い!」
 等と、わめきつつも、おや。味方のクリティカルが連発。しかもモグラはミスを繰り返し、かなり簡単に撃破してしまった。
 ……ほほう。なかなかやるな。そこで全滅する人は結構いるらしいのに。
「そうなの? けっこう簡単だったけど」
 まあ、クリティカルがどかどか出てたり、攻撃をかわせたりとかラッキーが重なってたのは事実だけどね。
「えー。それは違うよ。ウチのみんながちゃんと攻撃よけたんだよ」
 お。ちゃんと妄想できてますか。偉いぞ。
 それはそれとして街に戻り。再び出陣。
「なー。この、歩いたところが勝手に色変わるの、どうやって直すの?」
 おお? 面白いね。オートマップ、嫌なんだ?
 と、あらかじめ、歩いたところまで自分で書く設定にも出来るよと教えておいたけど、自分でそれを言い出すとは思わなかった。因むと私もオートマップはオフにして遊んでいる。
「だって、線だけ引いてても面白くないもん」
 あー。それは一理あるかもなあ。
「ところでこの、赤くなってるやつは何?」
 ああ、敵の出現率。それが赤くなると敵が出てくるの。
「へー」
 ……おじさんはそれの存在、B3F くらいでやっと気付いたけどなあ(説明書よめよ)
 それはそれとしても、オートマップをオフにするよう頼んでみたり、『赤いの』に気付いてみたり、ずいぶん積極的にゲームを楽しんでいるようだ。これが彼の性格によるものか、それとも世界樹の力かは少し計りかねるけど。
 とか考えているウチに、ちくちくとこまめにマッピングしつつ進むその先には、『あの』毒アゲハ地帯。しかもほぼ直進でそちらに向かっている。
 もちろん警告などはしない。にやにや見守る。
 花畑のメッセージに。
「このへんの文字もすごいよねー。なんていうか、具体的?」
 等とのんきに応じているウチに、遂に遭遇、毒吹きアゲハ三体!
「うわあ。なんかでたなんかでた」
 云いつつ選ぶコマンドはほぼ通常攻撃ばかり。明らかに、思いっきり見た目に騙されてますな。
 案の定、次ターンに悲鳴が上がる。……が、奇跡的にも死者はでてない。
「痛いし! しかもタフだし! 術式あてても死ななかったよ!?」
 ほれ。全力でやらんと。
 と云う助言(と云うよりヤジ)も必要なかっただろう。運良く、直前に覚えてたフロントガードを初めとして全員にスキルを使わせる。
 ……モグラ三兄弟のときもそうだったけど、妙に運がいいなあ。毒を連発してくるのだけど、結局戦闘終了まで毒を食らうキャラが一人も出ず、なんとか勝利を収める。
 えらい頑張ったね。
「うん。あーもー、死ぬかと思った」
 実際一人死んだしね。でもまあ運が良かったね。パラディンの最大HPは?
「30くらい?」
 毒食らうと、毎ターン25くらい食らうよ。
「……死ぬじゃん」
 だから運が良かったんだって。……とも言い切れないかな。帰る最中に全滅するかも知れんし。
「え?」
 えじゃないよ。歩いてきたんだから歩いて帰らないと。
「えーえーえー!? まじでー!? キュアとかもう使えないんですけどー!?」
 といいつつ、帰路の最中にカニとぶつかりそいつにもう一人犠牲者を出しつつも、なんとか生還。(ここにいたってやっと初めて訪れた)施薬院の、割と良心的なお値段の蘇生を受けつつ。
 どうかね。これが 3D ダンジョン RPG じゃよ。
「こえー! すっげー怖い!」
 楽しかろう。
「うん。これは楽しい」
 そんなこんなで、ほぼ探索を終えた 1F の踏破に掛かる。大きな箱の3つ並ぶ部屋を散々警戒しつつ開けてみたり等のシーンもあったが、概ね問題なし。
「あの宝石みたいなのって、もしかして採掘で取れるの? 削ったりとかして」
 水晶を入手することによって開けられるようになる扉のことだ。
 あー。その発想はなかったわ
「正解?」
 いやハズレ。採掘とか伐採とかは、さっきの花畑にもあったろう。ああいう場所でしか使えないし意味がない。
「敵倒した時みたいに、アイテムが貰えるんだよね?」
 そうね。レベル1で大体2つ。で、一日にそのスキルレベルに見合った数しか採れないの。
「そーいうスキルって、覚えた方が良い?」
 多分ね。メインのメンバーに覚えさせるなり、そういうアイテムを集める専用のキャラを作ったり。
「えー? アイテム取るだけのキャラだと、レベルが低いまんまになりそうだしなあ。あー、でも、今のキャラに覚えさせると剣とかのスキルが伸びないよね」
 まあ、その辺はお好きなように。
「うん。今はいいや。お金なら結構あまってるし」
 そういいつつ、遂に踏み入れた B2F で。
「お。新しい敵だ。うさぎじゃん! 可愛いし! ……って、うわ! ちょっと、うさぎなのになんでこんな強いの!?」
 ……昔ね? ボーパルバニーと云うウサギが居てね?
「うわあ! ちょっと待ってよ、こいつさっきの蝶々じゃん! もう出てくるの? っつーかザコキャラで出てくるの!?」
「うわ、なんか怖いの出てきた。鹿? ……つーか一撃で殺されたんですけど!」
 さくさく死ぬ。が、アリアドネの糸のおかげで全滅はなんとか免れている。
「……二階だよね? まだ二階だよねこれ」
 そうね。まだ二階だね。
「ヒロくんはこれで全滅してないんだよね? 今何階まで進んでるの?」
 地下12階に来たところ。
「それはちょっとすごいなあ……」
 しかも B2F くらいじゃ死者すら出さなんだぞ。……と思ったけど、でもその二階でもう死んでたな。
「えー? どの敵にー?」
 ……とある敵に。
「うっわ。『とある敵』って、いやな響き!」
 と云うか、赤字だね。1,000yen あった資金も既に残り 100yen。伐採スキルとかは良いの?
「いやー。だってレベル上げないとだめだもん。金稼いでる場合じゃないっしょ」
 そう云うもんですか。
 いいつつ、とうとう foe の警告文が表れる。絶句の後に、「こいつかあー」と漏らす。


 ――その後は、取り合えず準備を整えて foe に特攻。しかし見事に玉砕されるも「逃げれるよね? 逃げれるよね?」と繰り返しつつ試行した逃走が成功。糸で帰還し全滅を免れる。しかし、ちょうどよく(?)それにより資金が底を尽き、伐採用キャラを作成。
 B2F で格段に強くなる敵相手に資金難に陥り、アイテム収集せざるを得なくなるという、恐らくは開発者さんが引いたガイドラインに綺麗に沿いながら進む。
 で。foe を避けて進むという選択肢が全然思い浮かばないようだから、つい『もっとよく観察してみな』とアドバイスをしてしまい、以降は、伐採ポイントの往復で底上げされたレベルと、新たな敵から手に入る素材で装備も充実し極めて順調に進む。
 Lv7 で狂える角鹿を撃破し、初めて会敵した『全てを刈り取る影』相手にアームボンテージを決め、惜しいところでアルケミストの TP が切れて撤退――等を経て、レンさんとツスクルさんとに出会ったところで、彼の体力は尽きたようだ。


 全体を通しての感想としては、まるでホラーゲームを遊んでいるかのように連呼される「こえー。こえー」が実に印象的でした。
 昨今の RPG ……どころか、今までのゲーム史をみても、これほどきっちりとスリルを与えてくれるゲームは希少な部類になるのではなかろうか。
 時間が無く、マッピングの面白さが増してくる B3F の奥の方までをレポート出来なかったのが悔やまれる次第だ。
 それから、思ったよりも(期待したよりも?)プレイに『ぶれ』が無かったのも特に強調しておきたい。
 要するに、『何をすれば良いのか解らない』て事態や、取り返しの付かない失態等が一切なかった。
 これは、被験者である彼が小6と云う年齢から想像されるそれよりもずっと『ゲームの常識』に通じて居たのか、それとも世界樹と云うゲームのガイドラインが、私の想像よりもずっとしっかりしていたのか。それのどちらかはちょっと判別が難しいが……。
 ともかく。これをもって、『世界樹の迷宮』は、『小学6年生でも十分遊べる』もとい『初心者にも十分通用するゲームである』との証明とされたい。

世界樹に迷宮。


 都合上、パーティの容貌などの描写は省いております。都合っちゅーのは、人物を職業名で指すのも違和感があるけど、でもまあ、いきなりウチのパーティの名前で呼ばれても困るだろうて辺り。
 取り敢えずこんなパーティ。

 パラディンのココノエ。 ソードマンのらとれい。 レンジャーのアクルフィア アルケミストのキマ バードのあるは。






 深緑に彩られた、自然の造形により深く入り組んだ迷宮。そのただ中に点在する金色の扉はこの迷宮そのものを象徴しているように思えた。
 天然にはあり得ないその人工物は、この迷宮が明らかなる恣意の施された存在であると冒険者に知らしめる。扉に触れた者の多くは、その恣意に向けて問い掛けるだろう。「何故?」と。
 これほどの迷宮を造りあげたその理由は? 創造主は誰か? どれほどの力がそれを可能にしたのか? そして、その最深層にはいったい何が?
 扉は重く座して答えない。むしろ返答を拒んでいるかのようにさえ思える。そして問い掛けを発した冒険者は、問いを重ねる代わりに扉を押し開き自らその答えへと近付いて行く。
 しかし今、それに触れる冒険者達にはまた別の意味を伴わせていた。
 執政院より討伐を依頼された、獣の王の名を持つ魔物。それがこの扉の奥に潜んでいる。いわば彼らにとってこの扉は、死地に至る最後の境界線であった。
 狩人の出で立ちをした娘が、三つ指の極端にすり減ったグローブで確かめるように扉に触れる。そして、静かな深呼吸の後に背後の友人達へ告げた。


「明日にしない?」


 友人の殆どは肩をこけさせた。が、そのうち一人。厚い鎧に身を固めた金髪碧眼の女が極めて真面目な顔で応える。
「構いませんけど、準備も余力も万端です。今ここで明日に回しても、状況に変わりはないように思えますが」
 それを受けて、レンジャーの娘。唇をへの字に曲げつつ。
「……冗談だと思ってくれた方が幾らかマシだったわ」
 そう呟いて、「やれやれ」と云う消極的な気合いを一つ。もはや誰に対する断りもなしに扉を押し開け、前衛であるパラディン、ソードマンがそれぞれ構えつつ順に部屋へと飛び込んで行く。それに続くアルケミストが付け足すように云った。
「ほら。相手さんもお待ちかねだったみたいだよ」
 頭上にある、十に近い階層を忘れさせる遙かな吹き抜けの大広間。そのほぼ中心に蹲るように身をたわめた巨躯――面々が確認できたのはそこまでだったろう。その魔物は人外の雄叫びと共に猛烈な突進を繰り出してきた。
 即座に散会してこれを交わす。相手は人智を凌駕した力を持つ魔物である。故に、それに対する人間は力を束ねて向かわねばならない。しかし散り散りになってはそれも叶わない。レンジャーのした舌打ちはそうした懸念を込めてだったろう。パーティの誰よりもその魔物から距離を取り、そして誰よりも早く身を翻し弓をつがえた彼女は一息の間に矢を放つ――こちらに背を向けた魔物は、身の丈が成人男性の三倍を優に超える巨体に、腰まで届く蓬髪をしている。それだけならば人の姿をした巨人だが、突き出た雄牛のような角がそれを否定する。至る所に走る傷、そして街での風評。余程「場慣れ」しているであろうこの魔物が、5人の敵を相手にして死角を取らせてくれるとは思えない。つまり、常に壁を背にして戦うであろうその背後には、彼らの入って来たただ一つの扉がある――ここまでが、矢が魔物に届くまでの刹那に彼女がした思考だった。そしてその矢を魔物が振り向きざまに打ち払い、向けられた獅子を思わせるその顔を見留つつ仲間に向かい叫ぶ。
「逃げられると思わないで! 倒して帰るわよ!」
 応じるように、彼女の反対側からソードマンが切り込む。頭と同じ高さにある魔物の膝へ先ず一閃、そのまま踏み込み腹部にも鮮血の筋を走らせる。激痛か憤怒か、叫びをあげつつ落雷の如く振り下ろされる拳を大きな動きで避けた所に、場違いに明るい声が響く。
「あとにびょーう!」
 それを合図にしてか、ソードマンは攻勢を即座に抑え、牽制を怠らず魔物から跳び退く。
「せぇーの!」
 残り1秒。魔物のほぼ正面に位置したアルケミストが、彼らのシンボルである籠手に包まれた拳を強く握りこむ。その指の隙間から炎が漏れ、即座に万歳を叫ぶかのように敵へと突き出す。
「ごっ覧じろぉ!」
 0秒。
 瞬間、白く眩い輝きが魔物の巨体を呑み込んで揺らめく。遅れて起きる爆ぜ音と共に鼻を強く突く異臭と、赤く変じた炎がパーティを照らす。計算通りの結果に喝采を挙げかけたアルケミストのその賢しい目は、しかし異常を即座に見分ける。炎の中心にある魔物の影が、揺らぐことなく立ち尽くしている。
「あ。や――」
 ――やばい。その言葉は、そう言い終わる前に途切れた。未だ炎の消えぬまま振るわれた豪腕に叩きのめされたからだ。
 その腕は横薙ぎに振るわれた。咄嗟にしゃがんで避けようとしたのだろう、側頭部を打たれ半回転し、地面に頭を打ち付けた。それだけでは勢いは収まらずそのまま暫く転がって行き、丁度尻餅をついた格好で止まる。
 そこにバードの少女が駆け寄る。流れ始めた血が目に入る前に包帯で押さえつけ、回復薬を塗りつけガーゼをあてがい、その上に更に包帯を巻き付けた。
 乱暴な上につたない処置だが、迅速だ。迷宮から得た木の実で出来たその回復薬は驚異的な早さで傷を塞ぐ。それ故に処置の腕はもはや関係なく、とにかく早急さが求められる。その点では十分に及第点だ。
 寸隙と呼んでも差し支えの無いその間を、しかし魔物は逃さず追撃を試みる――が、割って入ったパラディンが叩き降ろされた拳を盾で受け止めて見せた。
 並外れた質量と硬度とがぶつかり合う重く耳障りな音が周囲の空気を振るわせる。更に横様に振るわれた拳を一歩も動かず受け止め、背中越しに問う。
「大丈夫ですか?」
 そこにレンジャーの矢とソードマンの剣とで牽制が入り、それら攻撃を振り払いつつ魔物は跳び退る。
 アルケミスト、濡れ犬がするように強く首を振りながら(頭部への打撲はあまり揺らさない方が良い筈だが)立ち上がり、安否を答える代わりに云う。
「火、あんまし効かないみたい」
 アルケミストの術式は文字通り、彼らにとって最大の火力だ。それの効果が望めないとなると――パラディンは頷き、盾を握り直し応じる。
「ならば、持久戦の構えで」
 言い終わるが早いか、アルケミストを背後に直線的な動きで魔物へと突進する。その速度を乗せ、裂帛の気合いと共に剣を突き出した。
 鍔元まで突き刺さった感触が腕に伝わってくるが、その感触は異様であった。それを正確に意識するよりも先に、走った予感が半ば反射的に彼女を跳び退かせていた。
 その感触に敢えて近い物を云うなら、キャベツをざっくり切ったような……。
 地に足を付ける前後、素早く剣に目を走らせればそこにはキャベツが、否、草を丸めたような動物が突き刺さっていた。払い落とそうと剣を降ればあっさりと断ち切れ地に落ちる。
 ――この動物、何処から? 
 その答えは、魔物の足下周囲にあった。ともすれば足を取られそうな程に生い茂った蔦状の植物が蛇のようにのたくり絡まり合い、赤子ほどの大きさの球となり、自ら鞠のように飛び跳ね始める。
 それに構わず、バードが大弓を抱えるようにして持ち上げ、その引き金を引くと機会仕掛けでもって強烈な矢が飛びだした。が、草団子の様なその魔物が弾道に跳びはね割って入り自ら突き刺さり、親玉を守る。
「うー!」
 呻くバードを尻目に、ソードマンがつむじ風のように走り込む。その進路を塞ぐ草団子を一刀の元に容易く両断し瞬く間に魔物へと詰めより、腕へ向けてその勢いを緩めず鋭く薙ぎ払う。
 が、その剣は深く食い込みはしたが、裂傷を与えぬまま弾かれる。異常を察知したソードマンへ、そのまま振るわれた腕が強烈な裏拳を食らわせる。為す術もなく押し飛ばされるが、防御が間に合ったようだ。直ぐに体勢を持ち直して跳躍し、アルケミストへ向かい弾丸のように跳んできた草団子を切り捨て、ついでぼそりと呟く。
「さっきよりも硬くなってる」
「それってもしかして――」
 その言葉を肯定する訳でも無いだろうが、飛び跳ねる草団子が蛍のような淡い光を放つ。――すると、彼らの守護する獣王の傷が目に見えて癒えて行く。
「――持久戦も相手のが得意ってことかな」
 恐怖を書き表した抽象画のただ中に、クレヨンで描かれたチューリップがあるような。状況の深刻さの割にどこか気軽な調子のその応えに、背後から返答が帰ってきた。
「違うわよ!」
 しかも強烈なつっこみまで入る。ただし、ソードマンの方に。駆け寄ってきたレンジャーがその勢いを全く殺さずソードマンの背中に跳び蹴りを放ち――そのまま踏み台にして高く高く跳躍する。その軌道が頂点に達するまでの刹那、電光の走りそうな迅速さで矢を取り、つがえ、引き絞り、狙いを定め、そして落下を始める無重力の瞬間にそれを放った。
 高い角度から放たれたその矢は飛び跳ねる魔物の頭上を越え、獣王の、その巨躯を支える分厚い足の甲に矢羽近くまで深々と突き刺さった。
 この世に生きる、どのような物にも不快に響くであろう叫びが響く。その残響の中に音もなく着地し、群がる魔物を再び矢をつがえた弓を振り回して追い払いつつ距離を取るため駆ける。
「補給から断ちなさいっつってんのよ! 頼んだわよ!」
 アルケミストから注意を引き離す為だろう。獣王を中心に大きく円を描くように動きつつ、駆けるその背後を、復讐に燃える拳が執拗に追い掛ける。レンジャーも応じて、脚の一歩ごとに放ち続ける。しかしその悉くは事も無げに振り落とされ、あるいは礫のように弾かれる。
 牽制にもならない。噛み締めるように思いながら爪先で急ブレーキをかけ、強烈な一撃を放つべく引き絞る。その目が、狙いを定めるべく鷹のように獣王を睨み付ける。すると獣王の双眸と触れあう――その瞳の色。
 憎悪、憤怒、殺意すら超えて、こちらの存在そのものを全否定するような圧倒的な敵意。
 その逆巻く風に捉えられたレンジャーは、突然、糸の切れた操り人形のように膝を付き、そして崩れ落ちた。
 その無防備な姿に草団子が群がり始め、押しつぶそうと云うのか、一斉にのし掛かり始めた。一番近くにいたのはバードの少女だ。駆け寄り、わあわあと泣き声のような声をあげながら大弓を振り回し魔物を追い払おうとする。
 そこに、慈悲の欠片も感じさせない獣王の拳が鉄槌のように叩き降ろされる――その寸前にパラディンが猛烈なタックルをその腕にぶちかました。それによりそれた槌は横たわるレンジャーの僅かに外れ深い窪みを穿った。しかし倒れ伏したレンジャーは起きあがらず、群がる魔物はバード一人の手では取り除きようがない。
 その名前を呼ぶために開かれたパラディンの口からは、しかし重いうめき声が漏れた。叩き下ろされた物とは違う腕に視界外から背中を強打されたのだ。呼吸が止まる。激痛と、口の奥から浮かび上がってくる鉄錆の味と吐き気とに顔を歪めながら獣王と向き合う。
 どうする?
 その攻撃を受け止められる者は自分しか居ない。しかし群れる魔物はバード一人の手には余る。こうして向き合っていてはレンジャーを助けることが出来ない。
 そしてソードマンとは距離が離れている。しかも彼はアルケミストを守りつつ戦っているのだ。来て貰えば逆に彼女が無防備になる。どうすれば――その思考が行き止まりに行き着く前に、ヒステリックな喚き声が響き、次いで視界の端を何かが掠めた。
 バードの持っていた大弓だった。緩やかな放物線を描き獣王の鼻面にぶつかる。パラディンが何事かと振り返る必要もなく、その眼前にバードが躍り出す。石山に棲む小猿を思わせるような身のこなしで獣王の膝を蹴り、胸ぐらをよじ登り、たてがみにしがみつき、あれよと云うまに顔面に身体全体で覆い被さるようにして掴みかかり、体を反らせて深呼吸をし――


「ぅわ――――――――ぁあ――――!!」


 ――その小さな身体全部を楽器にしたかのような大音声を張り上げた。
 空気の振動が感じられるほどの大声に、レンジャーに積み上がった魔物の山が少し崩れた。その音源間近にいた獣王にも余程堪えたのか、眼前に張り付くそれを剥がそうともがきバランスを崩し、盛大な地響きをたてて尻餅を付いた。
 咄嗟に、パラディンだけが迅速に動けた。翻りざまにレンジャーに積み重なる魔物を一閃、二閃で払いのけ、身軽に着地したバードの名を呼び腰に結わえていた薬品を放る。駆け寄り様にキャッチしたバードはそのままレンジャーの元へ走り、俯せに倒れているその身体を抱き寄せて、薬品の蓋を口で開けて一気に呷り、それを再び一息で口移しにする。
 獣王の怒りに狂った叫び声の後、負けじとアルケミストが「がぁーおー!」と叫んで大笑い。笑気を残した声で云う。
「じゃあそろそろ行くよ!」
 腰を大きくひねり、右拳を背中にまで回して強く握る。するとその時点で既に爆発が起こる。
「大ー掃ー除ーっ!」
 火の粉を散らしながら右から左へ振り回す拳のやや遠方に、後を追うように次々と爆炎が巻き起こりさながら貪欲な火竜のように魔物を呑み込んで行く。更に、炎熱を厭わず飛び込んだソードマンが爆風に吹き飛ばされ無防備な姿を晒す草団子を次から次に切り捨てる。
 そして爆炎の到達点は獣王だった。一際大きな爆炎が地面、壁と云わず焦がす。その直中、爆風に押され立ちつくす獣王に、真正面、大上段から振り下ろしたソードマンの剣が深々と傷を付ける。
 踏み込み、更なる一撃、二撃。しかし、傷を負わせても獣王には怯みの色さえ見えず、その苛烈な敵愾心に翳りはない。傷をおびた腕に滴る血を雨のように迸らせながら高く振り上げ、三撃目を繰り出そうと構えたその剣ごとソードマンを叩きのめす。
 まともに浴びたその打撃に、一瞬、気が遠くなり全身の力が抜け落ちる。急激に白く塗りつぶされて行く感覚に、手から剣が放れた感触だけがはっきりと映る。そして次の瞬間、横殴りに襲ってきた激痛に、吹き飛ばされた無重力感の中で目を覚ます。迷宮の壁に激突するが、その痛みよりも剣を手放した焦燥感が彼を苛む。素早く走らせた視界に獣王の腕に深々と刺さったままの剣が映り、そして――ハヤブサを思わせる閃きとともに、獣王の顔面に何かが突き刺さった。
 顔を覆い仰け反り叫ぶ獣王に、いずれにせよ剣を失ったソードマンに出来ることは少ない。そうして立ちつくすその正面を、極めて、ものすごく、この上なく不愉快な表情に、怪力無双の職人が最も不機嫌な形にみえるよう丹誠を込めてねじ曲げたかのようなへの字の唇を張り付けたレンジャーが弓を引き絞りながら駆け抜け、瞳を狙い執拗なまでに何本も矢を放つ。
 その矢を払いのけざま、視界を奪われたせいか闇雲に振り回された腕の、その軌道に先回りしたパラディンがそれを受け止める。そして待ちかまえていたようにバードが動きの止まったその腕に抱きつくようにしてしがみつき、大根か何かのように突き立った剣を引っこ抜く。が、勢いを余らせてすっぽ抜けて飛んだそれをソードマンが跳躍して受け止め、走り抜け様に獣王の腱を深く抉りとる。
 もはや、それが断末魔の叫びであったろう。残された膝だけでは支えきれず、崩れ落ちる。その影が落ちる先にはアルケミストの突き出す篭手があった。


 その僅かな後。
 地上の敏感な鳥類が雲霞の如く飛び立ち、エトリアの人々に何かを予感させた。


 巨体の大半を黒く焦がした獣王が、爆発に押され幾秒かの合間立ちすくみ、そしてただの物体と化して再び崩れ落ちようとしている。
 その先には、やはり自らの起こした爆風に押されて尻餅を付いているアルケミストがいる。そして命を持っていた時とは別の威圧感をもったそれがゆっくりと自分に向かって来ているのに気が付き。
「あ。うわ。やば」
 と腰を浮かしかけたときにはもう遅い。速度を増して落下してくるそれに押しつぶされ――そうになったところを、飛びだして来たレンジャーに抱きかかえられるように体当たりをされ危うく逃れる。
 先程の爆発に比べると、余りにもささやかな地響きがおきた。
 土煙の僅かに上がるなか、何故か背中にまで回されているアルケミストの手を払いのけて起きあがり「おつかれさん」と同じ調子の、安否を気遣う気配のまったくなさそうな声音で尋ねる。
「……大丈夫?」
「あー。前髪がちょっと焦げたかな」
 レンジャーは返事をせずに、そのおでこをぺしんと叩いた。