(プレイ日記)世界樹の迷言。

 ツスクルさんと狼の時にも思ったけど、こういう偶然が作用すると、そのゲームはもはや無敵になると云う実感。
 B5F のお話です。




・水を浴びせたあとで説明するツスクルさん。
 言葉遣い等は普通だけども、ゲーム表面上にまで表れてこない各種動作は絶対不気味ちゃんだよなこの人。
 振り返る時も首だけで「ギギッ」て感じだったりとか。


・採取等が出来るポイントて大抵、小部屋にあるね。安全に採取出来るからだろうか。


・さて。そして遂に B5F の探索を開始。
 執政院の依頼で、ここが初めてのボスが居る階層だと云うことは解っている。
「ボス」である。「BOSS」である。
 それは、これまでに相対してきた foe とは違うのだ。ランダムでエンカウントするザコ敵とは異なる強さを持つ奴らも、所詮は野良モンスターに過ぎないのだ。


 つっても。
「ボス=倒す必要が絶対にある敵」と、「foe=気が向かなければ回避して進むのもアリな敵」と。
 ゲームバランス的にそこそこ攻略の余地を残す必要があるのは前者だっつーのは解ってるけどね。


 それでもそれは、一行に訪れた最初の「自ら挑み掛からねばならない全滅の危機」なのだ。
 気を引き締めて参りましょう。
 

・複雑に入り組んだ行き止まりの多い迷路。行きつ戻りつする必要があるから必然的に敵との遭遇も多くなる。また、曲がり角が多く見通しの悪い通路では foe と出会い頭になることも少なくない。
 しかし、B3F・B4F にある各種アイテムポイントを何度も往復したお陰で装備もスキルも充実している。
 これまでは一つの階を踏破するのに街まで何度も戻る必要があったけど、ここに来て探索は思いの外順調に進む。


 しかし、スノードリフトの住処に辿り着いて絶句。
 中央に近い位置へ繋がる、他の物と何も変わりはないのに一際重厚に見える扉。それを押し開いた先はこれまでの不規則な通路とは明らかに異なる一室だった。
 短い間隔で縦に真っ直ぐ延びる通路に、横から三筋の線が交わりシンメトリーを描く。そしてその中心に、黒々と靄を描く foe の表示。


玉座」と云う言葉が浮かんだ。


 そして更に、一歩踏み出した途端に両脇から駆け寄ってくる foe の表示。
 咄嗟に身構えつつ気付く。スノードリフトは知力の高い魔物であり、多くの狼を統率し冒険者に襲いかかってくると聞いた。つまりこの玉座を思わせる部屋は、地の利を活かし、討伐に来た冒険者を撃退するために彼が選び抜いた戦場なのだ。今まさに迫り来る foe も彼の配下である狼だろう。
 既にこちらは B5F の探索をほぼ終えて疲弊している。
 地の利も、数の利も、機の利も相手に奪われている。ここは余力を活かして威力偵察に留めひとまず撤退すべきだろう。
 その判断が甘かった。
 配下の狼を撃退しスノードリフトに迫る。迎撃を受け、表示される白い毛並みを持つ巨体。そして四方から迫り来る新たな foe
 これだけの情報で十分だ。早速、「逃走準備」を選択し撤退にかかる――が、表示される「君たちは逃走することが出来ない!」と云うメッセージ。
 焦燥か絶望かで目が眩んだ。
 ほぼ底をつきた TP。僅かな回復アイテム。それでも戦うより他の――勝って帰る以外の選択肢は無い。


 パラディンのココノエは残った TP で防御陣形を選択。
 レンジャーのアクルフィアはパワーショットを。
 バードのあるはに火劇の序曲を受けたソードマンのらとれいは通常攻撃。
 アルケミストのキマは、火の術式を。


 火劇の序曲を修得できていたのは僥倖だった。TP が不足していても十分なダメージを与えられる。スノードリフトが繰り出してくる攻撃は主に単体攻撃。回復も間に合う。アイテムがつきる前に、物理攻撃を行う3人に火の属性を与えることが出来れば勝つことは難しくない――。
 そう確信した次のターン。DS を握る手から血の気が引き、思わず取り落としそうになった。
 スノードリフトの背後からまた別の狼が新たに乱入してきたのだ。その数は2匹。
 パーティの体力は既に、ほぼ全員があと一撃を耐えられるか否かという状態にまで削られている。それを僅かな回復アイテムで補えて居たのは、敵が一体であり、その攻撃が一人ずつにしか向かわないからだ。新たに出現した敵を加えた3度の攻撃に、耐えるだけの術はもはやない。
 断念、放棄、観念。そんな言葉が浮かんだ。
 ボタンを押し、ゲームを進めるのさえ躊躇われた。
 パーティの状態を改めて確認する。最大のダメージソースであるアルケミストのキマの TP は 16。火の術式を3度唱えられる数値だ。奇しくも敵の数と同じ数字である。しかし、彼女が残り3ターンを生き延びられるかさえ解らない。――が、ここでふと、16 と云う数字がもう一つの意味を持っていることに気が付いた。


「大爆炎の術式」の消費量と同じ数値だ。


 それは天啓だったろうか。以前から試したかったことを一つ、思い出す。
 ソードマンのスキルに「チェイスファイア」と云う物がある。味方の火属性の攻撃に合わせて強力な追撃を放つという技だ。もしもこれに、敵全体に火のダメージを与える「大爆炎の術式」を組み合わせたらどうなるだろうか? その追撃は敵全体に行われるのだろうか? 以前から検証してみたかったが、現在出現する敵は殆どが大爆炎の一撃で吹き飛ばせてしまうため、試す機会がなかったのだ。
 ――腕に血の巡りが戻ってくるのを感じる。
 藁にもすがる思いであっても、しかしそれは活力に他ならない。
 ボタンを押し、ゲームの時間を進める。
 荘厳と云う言葉の何よりも似合う、ボス戦専用の曲が強く耳に響く。
 らとれいが追撃の構えを取る。
 スノードリフトとその配下の攻撃は、幸運にもそれぞれ分散し死傷者は出なかった。
 そしてターンの終わり。キマの大爆炎の術式が狼どもを呑み込み、直後、その濛々たる噴煙の中へらとれいが躍り込み――そして、スノードリフトとその配下を、一閃の下に討ち果たした。



・とかさー。
 ここまで盛り上がったのにさー。
 上げ底で脱出用アイテムであるところのアリアドネの糸を買い忘れてたてオチが用意されてるのてどないやねん。
 いやまあ死ぬ思いでなんとか生きて帰りましたよ。奇跡的にも全員無事でな。
 ん。まあ。と云うよりも、不思議と。絶対無事に帰れると云う確信があったね。




・そして、パーティ一行は執政院を初め多くの人々から祝福を受けた。
 安寧のうちに眠りながらもしかし、胸の内に微かな、それでいて看過の出来ないわだかまりを全員が抱えていたかも知れない。
 執政官から与えられた言葉は、パーティ一行が、ここから更に先へ進む事が当然であるようなニュアンスを含んでいた。

 
 ウチのパーティでは、迷宮の探索理由を「生活の安定」としている人間が過半を占めている。
 パラディンのココノエは、執政官に嫁いできた武門出の貴族の娘。しかし、その執政官に嫁いで直ぐ他界され、他に生活の方法を思いつけず迷宮の探索を開始した。
 ソードマンのらとれいとアルケミストのキマは元々旅空の下に生きてきた人間。エトリアに逗留しているのは暫くの日銭を稼ぐためだ。
 バードのあるはに至っては、一行に懐いただけの娘。もとより迷宮に潜る理由を持ってない。


 今回の依頼をこなして得た金額は、「些少ではあるが」との断りと相反した十分な額だった。
 このくらいの低階層でも十分に生活は立ち行くのだ。
 敢えて危険を冒してまで先に進む理由はあるのだろうか?
 ……そして、厄介なのが、その必要性が無いと云うことを、一行がお互いに認識し合っている点だった。


 先に進むという選択は、これまで共に進んできた友人に、さらなる危険を負担させる事に他ならないのだ。


 と云う訳で。その翌日。
 その宿屋の常連客であり、その食堂の、半ば特等席と化しているいつものテーブルに、比較的夜型で寝坊癖のあるレンジャーのアクルフィアが珍しくも一番最初に座っていた。
 一行の中で、彼女にだけは迷宮の奥へ進む理由があった。本職が学究の徒である彼女は、世界樹の様々な知識を得るため迷宮に訪れたのだ。
 ――だから、彼女にしか云えなかっただろう。
 自分含む5人全員が食卓に付くのを待って、極めて不機嫌そうな仏頂面でもって、彼女は云った。


「一度しか云わないわよ。……私は、あなた達とこの先に進みたい」


 反論の余地も、その必要もなかった。




余談:
「その割にはひとりだけパジャマだよ?」
「うるさいわね! うるさいわよ! 昨日の今日で平気なツラしてるあなたたちの方が異常だわよ筋肉痛なのよ筋肉痛! あーもー誰が何と言おうと今日だけは絶対迷宮にゃ足を向けないからね」
「異議なーし」